片隅の町の幸せ

それは、あなたの小さな幸せ

母親



 数日前、母親は、バスツアーの「四国八十八ヶ所の旅」に行ってきた。白装束に、お寺一箇所ごとで印を押してもらうのだ。バスツアーだと、月一回、一年で四国一周するのかな。バスだと、とても楽だと言っている。

 母親は既に、歩きと、交通機関を使って、四国を二周している。そして今、すべて歩いて回りたいと、三度目を回っているのだ。これには私も同行していて、高知県の桂浜まで進んでいる。私に時間がとれたら、またそこから出発する事になる。こういうのを、区切り打ちという。

 バスツアーは、死ぬまでに歩きとおせるか分からないから、保険みたいなものだろう。バスで回って、白装束に、印を全てもらっておこうとしているのだ。

 しかし、婆さんが歩き遍路をしていると、結構、珍しがられる。お年なのにお元気ですねぇ、ってね。しかも隣に息子がいるんだ、まるで、「砂の器」だぜ。

 外国人も時々いて、近寄ってくる。婆さんに、東洋の神秘でも感じてるのかね。

 白装束の下は、梵字の般若心経だ。母親が書いた。梵字とは、一字一字が仏をあらわしている。漢字で般若心経を書く人は多いが、梵字ではめったにいないだろう。寺の坊さんでも書いてるかどうか・・・事実、母親がこの心経を奉納すると、坊さんにたまげられる。

 

 母親は、わがままな婆さんだ。宿に入れば、やれ汚い、ほこりが多い、風呂が狭い・・・。飯の時は、味が薄いだの、量がどうたらこうたら・・・。

 道中でトイレがなかったら、野でする。気分が悪くなったとゲロを吐く。

 人ってのは、絶対的に美しいものではない、母親を見ているとそう思う。