深夜の沈黙
先日、牛乳配達の車の中で、NHKラジオの地震情報を聞いていたのです。司会のアナウンサーから別のアナウンサーに、被害状況の説明が求められた。
すると、求められたアナウンサーが、話さない。沈黙が流れる。どうなってるんだ・・・と耳を凝らしたら、嗚咽をこらえるような音が、かすかに聞こえるのだ。そして、アナウンサーが、話し出した。
被害状況と関係ないことを、とつとつと、時に沈黙しながら、話し続ける。その声は、震えている。
震災に襲われた人々と、粉々にされた街々への想いを、涙をこらえながら、話し続けるのだ。司会のアナウンサーも、止めようとしない。
普通に考えたら、これって放送事故だろう。アナウンサーの暴走だろう。でも、そのアナウンサーの震える声の向こうに、あらゆるものが見えたのだ。
「すいません、ちゃんと話します・・・」
そのアナウンサーは、最後にそう謝罪して、プロのアナウンサーらしい感情の無い声に戻り、たんたんと被害状況を話し始めた。