帰りたい
劇画、「はだしのゲン」のラストがどうだったかは、覚えていない。ひょっとしたら私は全部読んでいないかもしれません。たしかこの作品は一度未完で終わっていて、そこまでしか読んでいないかもしれない。そのラストはこんなだった・・・
ゲンが、自分の背丈ほどの木の杭で、地面に、
「自立」
と書いて、どこかへ颯爽と、力強く歩いていくのだ。
どこぞの県の、教育のお偉いさんが、子供が見れないように(全部か、一部か知りませんが)規制したという、「はだしのゲン」の残酷シーンですが、私はその描写を三十年ぶりに新聞紙上で見て、たぶん、小学生だった頃の私自身よりも戦慄を感じたのは、残虐行為をしている兵士の顔は目と口以外は黒く塗りつぶされていて、その白く抜けた目と口は・・・にんまりと笑っているのだ。
小学生の頃の私はその目と口に何を感じたのか・・・
でも今現在の私は、ゲンが木の杭で地面に書いたように、「自立」か「自立しつつある人間」にしか、その目と口から何かを感じることは不可能だろう・・・と思う。小学生には不可能だと思う。もし可能な小学生がいたら、私はその子供がちょっと怖い。
ただの面白い漫画として感じていてほしいと思う。
喜悦の目と口が白く抜けている・・・
恐ろしい描写だ。
作者の中沢さんは、そこに何を埋めたかったのか・・・
ところで私は最近、私の生き方にも影響を与えるような番組を見ました。
NHK【ETV特集】ガタロさんが描く町 ~清掃員画家のヒロシマ~ 2013年8/10(土)夜11時、再放送:2013年8/10(土)午前0時45分(金曜深夜)
広島県にあるマンモス団地の地下街で何十年と清掃員として働きながら、絵を描いている人の話だ。通称、ガタロさんという。
ガタロさんは、地下街に流れてきたホームレス男性の絵をとりつかれたように描いた時期があったそうだ。
この男性の目を見ていると、まるで自分自身と見つめ合っているようだ。「お前まだ自立してないんか」といわれているようだ。
それとも、私の母親の目と似ているようにも思うし、誰かの目だったかなとも思う。
この男性はある時こつぜんと姿を消したそうですが、なんとなくその時の心情が分かるといえば、その男性にちょっと失礼かもしれない。
どこかへ、背中を丸めて、とぼとぼと・・・
でも誇りをもって、きっと、帰りたいと思う場所には、帰らなかったのではないかとは思う。