片隅の町の幸せ

それは、あなたの小さな幸せ

心の光(三)、笑顔

 

 ホスピスから脱出するように退院したその日の母親の荒れ方は、たいへんなものでした。その矛先が、息子である私にも向けられたりしたのです。


 「あんたも病院とグルになってるんやろっ!」
 「正直にいうてみい、親子の縁を切るっ!」


 憎しみに満ちた目でそう言われました。そうだとしても、母親の現状は自分で歩くこともできませんから、言葉は悪いですがそれが唯一の救いでした。これで自由に歩き回ることができたらと思うと、何をしだすかわかりませんし・・・。
とにかくその日から、私は母親のベッドの横に布団を並べて寝ることにしました。
 夜、布団に横たわって、ふと、母親と、四国遍路の旅に出たことを思い出して、そのことを言ってみたんです。


 「遍路に行ってるときは、一緒にこうして民宿に泊まったなあ」


 そしたら、ずっと顔を引きつらせて天井を見つめていた母親の頬が、ふっと緩んだのです。


 「そやなあ。また行くか?」


 とまで言ったのには、驚きました。そして、その体ではもう行くことなどできない、そう思うと不憫になり、そして、旅をしていたとき先先と足早に歩いていたことを思い出して、


 「悪かったなあ」


 と詫びを言ったら、さらに驚いたのは、母親は黙ったまま笑ったのです。