片隅の町の幸せ

それは、あなたの小さな幸せ

 私は、お寺に行くのが好きだ。たちこめる線香の匂いが、好きだ。人の一番美しい姿って、胸の前で手を合わせた姿だと思う。背の曲がったお年寄りでも、手を合わせた姿は、シャンとしている。ゆらめくロウソクを眺めるのが、好きだ。

 

 部屋を真っ暗にして、ロウソクに火をつけて、ゆらめく炎を眺める。すると、温かな落ち着きを感じられる。そしたら、拮抗するように、闇の妄想が口を挟んでくる。

 そういえば、哲学者ってのが、人は闇に浮かぶテレビだって言ってたな。テレビより、このロウソクの方がぴったりじゃないか。ゆらゆら揺れて、いつか燃えつきてしまう。そして、口でフッと吹けば、消えてしまう。人そのものじゃないか。ちょっと、消してみようか・・・フッ、フッ・・・

 ロウソクの炎って、なかなか消えないもんだな。消えたと思ったら、消えていない。もっと勢いをつけて・・・

 突然、ロウソクを真ん中に手を合わせるようにして、白い手が闇に浮かび上がる。

 なんだなんだ!?誰だ、あんたは!?人がせっかく、炎を消そうとしてるのに!

 えっ!?生命だって!?なにが生命だ!なんだってんだ、いまさらっ!

 なにを!?消えてしまわないように手で包めだって!?だったら、あんたがそうしてろよっ!なにっ!?自分でやれだとっ!うるせえっ!!

 なにが生命だっ、俺はあんたが大嫌いだっ!世の中にはな、手を持ち上げる力のない人間がごまんといるんだ。包み込めないんだよっ!わかってんのかっ!?ちくしょおっ!!



 階下で声がして、部屋の電気をつける。母親が、風呂が沸いたと言っている。部屋の電気は、パッと、簡単につく。パッ・パッ・パッ・・・部屋の電気をつけても消しても、ろうそくの炎はゆらめいている。

 生命って、ムカついてくるぜ・・・