繭(まゆ)
宮城放送局製作、
FMシアター、 『繭(まゆ)』
東京に住む大学四年生、ユウタ。就職も決まらず、同居している四つ年上の恋人との関係もギクシャクしています。そんなユウタの元に、宮城県に住む叔母さんから葉書が届きます。
ユウタの叔母さんは震災後の宮城県の田舎で、たった一人で機織りの仕事を始めました。夏休みの間、その仕事を手伝ってほしいというのです。東京でバリバリのキャリアウーマンだった叔母さんが、なんで機織りなんか・・・。ユウタは不思議に思います。
「ちゃんと世話をしていると、お蚕(かいこ)様は分かってくれるのよ」
うじゃうじゃと蠢く蚕の群れ。叔母さんは、蚕の糸で機を織っているのです。 ユウタはお蚕様のエサとなる桑の葉を摘む作業が苦痛でしょうがありません。ユウタは虫が苦手なのです。イヤイヤ毎日作業を続けるユウタ。そんなある日、桑畑で一人の少女と出会います。
「私、あなたのすぐ近くに住んでるの」
ユウタは、桑畑で出会う少女が心の支えとなっていきました。でも、そんな少女はこの地域にはいない。ご近所さんはそういうのですが・・・
「蚕は食べるのが仕事。いっぱい食べて成長して、それから糸を吐き出して繭になる。繭は熱を加えられて、蚕は殺される。そうしないと、蚕は蛾になって繭を壊してしまうから・・・。だから殺される・・・」
蚕の世話に慣れてきたユウタには、その事実が受け入れがたく感じてしまうのです。蚕はいったい何のために成長するのだろう・・・。
叔母さんは何のために、繭の糸で機を織るのだろう・・・。
何の意味があるんだ・・・
・・・生まれ変わるの・・・
おばさんが織り上げた繭の糸の布を見て、ユウタはお蚕様の言葉を聞いたような気がしました。
その声は、桑畑の少女の声と似ているのです。